マンガ『Dr.STONE』岩を砕くのは、いつも欲望だ。

Pocket

岩を砕くのは、いつも欲望だ。

人が、人類が、岩壁に直面したとき、
それを乗り越える原動力となるのは、何だろう?
夢、好奇心、プライド、友情や愛情……。 
どれもこれも正解なんだろうけど、それって突き詰めれば結局、
欲望でしかないんじゃないだろうか?

石になった彼らは、多くのものを失う。
自分の夢を追い求めることも、友人や愛する人と穏やかな日々を送ることも、
当たり前だったはずのことが困難になってしまった時代。
それでも、彼らは欲することをやめなかった。
その欲望が、文明を急速に前に向かわせる。

無欲の雫が岩を穿つまでには、どれだけの月日が必要だろうか?
それを横目に彼らは、ほんのわずかな時間で無数の岩を砕く。
作物を育て、海や空を渡り、病を治し、遠く離れた人も会話する。

岩を砕くのは、いつだって欲望だ。

 

僕が『Dr.STONE』を好きな理由

勝手につくったキャッチコピーからはじめてみました。みなさん、マンガ『Dr.STONE』はご存知ですか? 週刊少年ジャンプで連載中、アニメも明日(7/5)から放送開始らしいです。ぼく、このマンガがめっちゃくちゃ好きで。なんで好きかの整理も兼ねてレビューブログを書いてみます。

読んだことのない方のために、さらっとあらすじを紹介します。
といっても、公式さんからの引用ですが。

衝撃、保証。

一瞬にして世界中すべての人間が石と化す、謎の現象に巻き込まれた高校生の大樹。数千年後──。目覚めた大樹とその友・千空はゼロから文明を作ることを決意する!! 空前絶後のSFサバイバル冒険譚、開幕!
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

公式のジャンルワードを借りるなら“SFサバイバル冒険譚”。うん、何かジャンル名をつけろと言われたらそんな感じになるかもです。でも、この言葉とあらすじから、実際の作品の内容を正しく想像するのは難しい気もします。 
たぶん読んだことない方がイメージしたのって、
・原始化(または荒廃)した世界を舞台にサバイバルする、冒険スペクタクル!
・危険な動植物(あるいはメカ)を相手に、知恵と勇気と友情を武器に戦う!
・随所にチラつく、石化現象を仕組んだ黒幕の影。敵のねらいは?正体は!?

たしかにそういうシーンもあるにはあるんですが、なんかちょっと違うんですよね。

・原始化(または荒廃)した世界を舞台にサバイバルする、冒険スペクタクル!
 ⇒世界は原始化してるし、冒険もするんですが、それがメインじゃないんです。
  主人公たちは冒険よりも、生活基盤をつくることを優先します。
  しかも、生き抜く(サバイブする)ことを目的にするんじゃなく、文化的に生きる(文明を再構築する)ことを目指します。
・危険な動植物(あるいはメカ)を相手に、知恵と勇気と友情を武器に戦う!
 ⇒戦いはあるんですが、相手は基本的に人間です。
  武器にするのも、知恵というよりは知識。科学知識を使いまくります。
  勇気と友情は、出ては来るけれど戦いの決め手としては描かれません。
  戦力差が精神でひっくり返るようなシーンがあんまりありません。
・随所にチラつく、石化現象を仕組んだ黒幕の影。敵のねらいは?正体は!?
 ⇒最近ちょっとだけ出てきましたが、序盤はほとんどありませんでした。
  異世界SFの醍醐味とも言える、陰謀論的要素ほとんどなしで2年以上も楽しく読めてます。

この作品がユニークなのは、そういう冒険マンガやSFマンガの王道的な部分を脇に置いて、それでもめちゃくちゃおもしろいところです。


理系の目に涙。科学の価値を伝えてくれる科学無双ストーリー。

では何が主役なのか? それは、科学です。ジャンプ史上、最も丁寧に科学を扱った作品なんじゃないのってくらい、サイエンス色が強い。SF(空想科学と翻訳される)作品なので、空想的(超常的)な現象が物語の起点にはなるんですが、ストーリーを動かす原動力はむしろ、極めて現実的な科学知識です。

化学や物理の授業で習う、それも中学高校レベルの教科書に載ってるような知識が、物語を動かす鍵になるのは、理系の人間からしたらもう大興奮モノです。だって、現実世界にちゃんと存在する科学技術が、ファンタジー漫画でいうところの伝説の聖剣とか、失われた禁呪とか、奇跡の妙薬みたいな立ち位置で描かれるわけですから。あらゆる難事を解決する柔軟性に「科学オモシレェェェ!」とワクワクし、絶望的なまでに不利な状況を一気に形勢逆転する力に「科学ツエェェェ!」と震え、根性とか感情じゃなく理論に従ってのみ機能する不可侵さに「科学カッケェェェ!」と涙せずにはいられません。

僕なんかは、読んでる最中にマンガから頭が離れ、その科学を現実世界で発見した科学者の気持ちを想像しちゃったりします。RPGでレジェンドアイテムを手に入れた時、めっちゃ興奮しましたけど、それって開発者に用意してもらったものじゃないですか。そういうものが存在することが、約束されているか、少なくとも匂わされています。
科学的発見の場合、現実にあるかないかすら分からない、自分の仮説だけを信じて人生捧げてるわけです。そこで「やっぱあったぞ!」って発見したときの興奮は、ちょっと段違いでしょうね。いいなー、やっぱ科学者なりたかったなって、思うわけです。歴史スペクタクルって言葉がありますが、この作品は言うなれば科学スペクタクルですかね。この先、『Dr.STONE』を読んで科学者を志しましたって人がノーベル賞を獲る未来とかありそうで、なんかワクワクします。

と、興奮気味に書きましたが、「科学」は私がこの作品を推すポイントの1つではありますが、最大のポイントは別にあります。この作品には、理系の人以外も心打たれる、もっと根源的な魅力があるんです。


ビジネスマンの目に涙。「欲望」が世界を前に進めていく世界。

その魅力とは、登場人物たちが欲望に忠実で、その欲こそが、新たな文明を切り拓く鍵になるところ。彼らの欲は、よくもまあこんな何もない世界になってまで、そんなことまで望むよねってくらいエゴイスティックなのだけれど、その振り切れ方が気持ちいいんです。

原始時代みたいな世界が嫌で、文明の利器を使ってラクにタノしく暮らしたい元メンタリスト。銭ゲバで金ですべて解決できると思っている元大金持ちの海運王。ゴシップ大好きで、圧倒的な情報網を持つ元記者。石化後の原始の時代に生まれて、体系的な知識なんて何もないクセに抑えきれない知的好奇心を持つ男。同じく原始の時代に生まれて、精密な工具なんて触ったこともなかったクセに、困難な工作をドMになって楽しみ切る職人ジジイ。ただ権力がほしいだけ、女にモテたいだけのその他大勢。

いろんな欲を抱く人々が、欲に動かされて努力し、手を組み、時代を動かしていきます。ラクしたいから科学力があるほうに付き、科学を進めるために詭弁を吐いて労働者のモチベーションを高める。航海士としての能力を提供する代わりに、油田利権を一手に収めようとする。カメラでゴシップが撮りたいから、カメラをつくってやるという言葉で買収されて、貴重な情報を渡す。権力ほしいだけのヤツや、モテたいだけのヤツだって、それが手に入るかもという餌をぶら下げられて、必死に努力する。
そうやって、欲によってモチベートされ、欲によって協力関係を結んだ人たちが、文明を切り拓いていく姿の、なんと頼もしいことか。みんなが無欲だったら、このマンガのストーリーは、きっとちっとも前に進まないことでしょう。誠実に公正に、みんなが同じだけがんばって、同じだけ対価を得てっていう世界だったら、たぶん何億年経っても文明はほとんど前に進まないんじゃないのかなと思うんです。

もちろん、全員が全員、100%自分のためだけではありません。むしろ、石化した人々を元に戻したいとか、石化以降に生まれた子孫の暮らしも守りたいとか、大義らしきものを抱く人のほうが多いくらいです。でも、そんな人たちも、「それが正しいからそうする」とは決して言いません。「自分がそうしたいからそうする」という姿勢を貫きます。誰かのため、なんていう欺瞞はどこにもありません。あくまで私欲の一部として、自分の義を果たそうとするのです。そしてそこには、清々しい美しさがあるように思うのです。

マンガの話から少しズレるますが、どうも現代って、私的な欲が汚いものとして扱われがちじゃないですか?自分で稼いだお金で月旅行に行くっていったら批判を浴びるとか、僕にはまるで意味がわからないのですが、そんな考え方の人がたくさんいるみたいで気持ち悪いです。欲を抱くこととか、それを表に出すことって汚いのでしょうか? そりゃあ汚い欲もあるんでしょうけど、基本いいものだと思いますけどね、僕は。

と、徒然な感じで書きましたが、ホントいいマンガです。科学万歳、欲望万歳。

by
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です